旧制度から新制度に移行するにあたり、給与額が変更にならない場合は良いのですが、給与額が減少する場合は、不利益変更になりますので、激変緩和措置を施さないと法的にも、社内のモラール維持の面からも問題になります。

 給与制度改定で全員の給与が下がる不利益変更はみとめられません。

 不利益変更が行えるには条件があるので、これはコラムを確認ください。

 

 さて、制度変更によって、給与が上がる人もいれば、下がる人もいるわけですが、会社全体として給与総額が下がらなければ、合理的な改定であり、労働組合と制度の合理性を協議して、合意する必要があります。

 では、給与が下がる人は給与制度の変更と同時に減額して良いのでしょうか。

 ここは、労働組合が人事制度の合理性のほかに、会社が給与の下がる人に配慮していることが示すことができた方が納得感がえられやすいですし、会社全体もモラールも維持向上できるので、会社は一定期間、給与が下がる者への給与補填を行うのが通常です。

 具体的には初年度は給与減額を行わず、3年程度の期間を設けて、1年に最大3万円を上限に本来の給与に近づけていく方法がとられとられます。

 激変緩和措置の期間に、上位資格や上位職務に昇進昇格する挽回のチャンスを用意するわけです。

 この間、会社は人事制度改定にあたって、給与の上がる人もいるわけですから、人件費が持ち出しになりますが、これは、より良い制度を導入するうえで必要な投資ということになります。

 相談の件ですが、月に¥10万もの減給となりますと、賞与も合わせて大幅な収入ダウンとなります。

不利益変更をやむを得ず行う場合の2つの進め方

 やむを得ず、従業員に不利となるような労働条件の変更を行わなければならない場合は、①従業員個人からの同意取得や労働組合との合意による方法、もしくは②個別の同意や合意によらず就業規則を変更する方法がありますが、給与制度による不利益変更は①の合意を得る方法に依らないと裁判になった場合に認められない可能性が高いといえます。

①従業員個人や労働組合の合意を得る方法

 労働条件を変更する際は、まず従業員全員に個別で同意を得る、または社内に労働組合がある場合は労働組合との合意をまずは検討します。従業員の同意を得られれば、不利益な変更も有効と判断されます。そのため、従業員に対し十分な説明と協議をすることが、企業には求められるでしょう。進め方を詳しくご紹介します。

1.就業規則の変更方針を決定

 企業の現状を分析した上で、総務部等の人事労務部門を扱う部署を中心に就業規則の変更方針を固め、草案を作成します。変更が適用される従業員の範囲を明確にし、対象を特定しましょう。その後、「変更内容に合理性があるか」「従業員が受ける不利益の程度がどのぐらいなのか」などを確認し、問題がなければ経営陣の合意を得ます。併せて、対象となる従業員に個別で同意を得るのか、社内に労働組合がある場合は労働組合との協議で合意を得るのかも決定しましょう。

2.従業員との面談や労組との協議

 従業員との個別面談では、変更に関する十分な説明を行い、理解を得るようにしましょう。従業員がどのような不利益を被るのか、変更の具体的な内容を伝えることはもちろん、経営状況の悪化など、変更が必要な理由について詳しく説明します。従業員への不利益が大きい変更の場合は、代替措置を用意し、提案・協議する形で交渉を進めましょう。この際、威圧的な雰囲気にならないよう十分に注意し、従業員の真意で変更に同意できる状況を築いておくことが重要です。

 労働組合がある場合、組合との間で労働協約を締結すれば、従業員からの個別の同意を得ずに労働条件の変更ができます。ただし、効力が及ぶのは原則「組合員のみ」です(これを「規範的効力」といいます)。ただし、平成9年3月27日に示された最高裁判所の判決では、特定の組合員や一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として労働協約が締結された場合など、労働組合の目的から逸脱して労働協約が締結された場合には、その規範的効力が否定されることを示唆しています。不利益の対象・範囲と程度を把握し、対応するとよいでしょう。

3.同意書の作成または労働協約の締結

 従業員との面談後、納得ができているようであれば同意書を記入してもらいましょう。従業員による同意は、口頭でも可能です。しかし、書面に残さずに口頭だけで同意を得ると、該当する従業員が後から「そのような同意はしていない」と主張した場合、同意を得ていたかどうかの証明ができません。従業員とのトラブルを防ぐため、同意書を作成し、書面で残すようにします。

 一方、労働組合との間で合意に至った場合は「労働協約」の締結が必要です。労働組合法第14条により、労働協約は「書面」にし、「両当事者が署名または記名押印する」ことで効力が発生するとされています。労働協約は、必ず書面として残しましょう。

4.就業規則を変更し届け出する

 従業員の同意を得た後は、就業規則の該当する項目を変更します。就業規則を変更しなければ、労働契約法第12条の「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする」という定めにより、変更に関する合意は無効となってしまうため、注意しましょう。変更後は、就業規則変更届と労働者代表から得る意見書、新しい就業規則を2部ずつ作成し、労働基準監督署に届け出ます。1部は受付印を押されて返却されるため、社内で保管しましょう。

5.変更を周知する

 就業規則の変更は届け出れば終了というわけではなく、変更内容を従業員に周知する必要があります。「事業所内の見やすい場所に掲示する、または備え付ける」「書面にして従業員に交付する」「電子データとして、事業所内のパソコンでいつでも閲覧できるようにする」といった方法で、周知を図るようにしましょう。

②従業員の同意を得ず就業規則を変更する方法

 原則としては従業員との合意が必要ですが、個別での同意や労働協約による合意が得られない場合でも、変更が合理的といえるもので、変更後の就業規則を従業員に周知した場合には、労働基準法第10条に基づき「就業規則の変更」により労働条件の不利益変更を行うことができます。就業規則の変更は、労働基準法により手続規定が定められています。

1.就業規則の変更方針を固め草案を作成する

 会社の現状を分析した上で就業規則の変更方針を固め、草案を作成します。その際、変更が適用される従業員の範囲を明確にし、変更内容に合理性があるか、従業員が受ける不利益の程度がどのぐらいなのかを確認しましょう。問題がなければ、法務担当の確認を経て、経営陣の承認を得ます。

2.労働者代表から意見書をもらう

 変更後の就業規則を労働基準監督署へ届け出る場合、労働者代表から意見を聴取した証明となる「意見書」の提出が必要です。意見書の様式は、特に決まっていません。意見書の作成には、労働者の過半数で組織する労働組合や、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聞く必要があります。労働者代表に、就業規則の変更に対する意見の記載や、署名・捺印をしてもらいます。意見がない場合でも、「特に意見はありません」などと記入してもらうことが必要です。

3.就業規則変更届を作成し届け出をする

 就業規則を労働基準監督署に届け出る際には、「就業規則届」の作成が必要です。「就業規則届」には決まった様式はなく、「企業の名称」「企業の所在地」「企業の代表者の役職・氏名」などが記載されていれば、書式は自由とされています。作成後は代表者印を捺印します。

4.変更を周知する

 変更の届け出が終わった後は、変更内容を従業員に周知することが義務付けられています。従業員がいつでも確認できる状態にしておくことが重要です。周知義務を怠ると、労働基準監督署の指導を受ける場合や、罰金刑につながる可能性もありますので注意しましょう。