人事評価制度のいろいろ

職能資格制度主流の時代の人事評価制度

 日本で長く雇用制度と賃金制度を支えてきたのは、「業務遂行能力」をベースとした能力評価や行動評価といった人事評価制度です。いわゆる職能資格制度の軸に沿った評価制度です。

 新卒採用から、ジョブローテーションを繰り返して徐々に成長を続ける中で、仕事の目的に対するプロセスや取り組む姿勢と成長について項目で評価するのですが、企業(言い換えれば上司)にとって好ましい人材なのかを人事評価に落としこみやすい漠然とした評価制度でした。

目標管理制度

 その後、日本の経済成長の低迷が続く中で、能力よりも仕事の業績や結果を重視すべきという風潮が強まり、被評価者が自ら仕事の目標をたてて、その結果を評価する目標管理制度が世の中に浸透していきました。現在日本では、目標管理制度(MBO)は大企業を中心に評価制度の主流となっています。

「目標管理制度」のメリット

1.会社と個人のベクトルをあわせやすい

 会社全体の経営計画を個人の仕事の目標にブレークダウンすることにより、企業業績と個人の仕事のベクトルの向きを合わせることができる。

2.目標が具体的になる

 目標は原則として部門の目標に寄与できるように個人が目標を設定して、上司とすり合わせるため、具体的な目標を設定しやすい。

「目標管理制度」のデメリット

1.MBOが機能できない場合がある

 MBOは仕事の成果を直接、人事評価にするものです。したがって、当初想定した環境と実際に仕事を遂行していった際の環境が大きくかわった場合は、個人の力ではどうにもならない場合やそもそも研究開発等で短期間では目に見える成果をだせないようなMBOに向かない仕事もあります。るため、後述するコンピテンシー評価などの行動評価を併用する会社が多いです。

2.ノルマ管理のツール化の恐れ

 目標管理制度には、成果主義が実践されているかを図る尺度として取り入れられてきた背景があります。また、目標の設定に経営目標なども考慮することから、従業員の能力開発やモチベーション向上という側面よりも、ノルマ管理のためとして利用するツールと化してしまう恐れがあります。

3.目標を低めに設定してしまう

 目標管理制度が人事考課に連動するため、高評価を得るために、わざと低めの目標を設定するという事が起こります。事実、目標管理制度と人事評価が連動していて、人事評価は給与制度に連動している企業が多いため、目標の達成具合は給料に直結してきます。

 このような場合は、目標の達成具合だけで評価するのではなく、目標の難易度も考慮する必要があります。

4.公平な評価に手間と時間がかかること

 目標管理制度では従業員が個々に目標を設定することになります。そのため、内容や難易度がそれぞれの人の異なる目標に対して、公平に評価をするという困難な作業が必要となり、評価者間の人事評価の甘辛に対する認識の共有やそのための手間や時間が必要になります。

コンピテンシー評価(行動評価)

 コンピテンシー(competency)は、組織行動学の概念です。

 1970年代に、アメリカのハーバード大学の教授であるマクレランド氏が研究をスタートしたました。1990年代にアメリカの人的資源管理に導入されるようになったもので、人事評価制度に導入されるようになってから歴史が浅いといえます。

 コンピテンシーは、高い業績をあげている従業員に共通してみられる行動に表れている能力のことで、他者から観察することができる顕在的な能力です。

 つまり、「成果につながる行動特性」と訳されます。

 コンピテンシー経営戦略と人事制度に活用するためには、自社にあったコンピテンシーモデル形成と更新・改善が必要不可欠です。

 コンピテンシーの結果は、1ヶ月や2ヶ月といった短期間で得られるケースは少ないですが、半年・1年、場合によっては数年単位で更新・改善を繰り返していくことで、徐々に成果があがっていきます。そのため、コンピテンシー評価の運用にあたっては、中長期的な視野を持った運用が必要になるといえます。

 独自のコンピテンシーモデルを作成して、人事評価制度に落とし込むことが必要です。従業員にとっては、キャリアプランに基づき、必要とされる能力や知識を知ることができるため、能力快活の目標を立てやすくなります。コンピテンシーの導入は、単なる評価の透明化だけではなく、中長期的な人材育成計画や従業員のキャリアプラン構築にもメリットがあるといえます。

コンピテンシーのモデル形成の仕方

 成果や結果、技術(テクニカルスキル)は目に見えやすいものです。しかし、コンピテンシーモデルを形成する場合、動機・メンタルモデルや性格といった、目に見えづらい行動特性をモデルとして形成する必要があります。
 成果や結果を出した行動だけではなく、背景にある特性を把握する必要があるのです。

 また、コンピテンシーモデルは、組織のベクトルを踏まえたものでなくてはなりません。
 将来のビジョンや経営戦略を踏まえ、求められる人物像を定義づけていきましょう。

 こうして作成した「理想型モデル」と、ハイパフォーマーモデルの「実在型モデル」を組み合わせたモデル(指標)を作成することで、実務的なモデルを制作することができます。

 純粋なコンピテンシー理論ではなく、経営者が「こうした人材を増やしたい。こうした行動をとってほしい。」といった、旧来の行動評価にコンピテンシーを加味した評価項目を作成することで従業員の行動のメルクマールとするのがよいのではないでしょうか。

コンピテンシー評価の課題

 1つ目は、コンピテンシーは過去や現在を重視しがちです。
人事制度は、本来ならば経営戦略を達成するための手段や機能です。
 しかしコンピテンシーには、未来志向の内容が必要なのに踏まえられていないケースが多くあります。

 2つ目は、コンピテンシーの寿命の短さです。
 コンピテンシーはヒアリングで抽出され、過去を志向する色彩が強いので、ICTの進化といった環境変化によって、あまりにディテールを記載すると「陳腐化しやすく」なります。
 詳細すぎる記述は、評価項目としての寿命を地の縮め、人事制度としての妥当性・信頼性を損なわせる懸念が生じます。

 3つ目は、コンピテンシーの適用範囲の狭さです。
 コンピテンシーを発揮することができるのは、自主裁量が認められている、マネジメント層やホワイトカラーなどの一部に限定されることが指摘されています。コンピテンシーをもとにして、生産部門を含めた全職員を対象とする人事制度を構築するには困難が伴います。